宿神(2007年4月)
「文覚は、そういうやつですよね」
まぁ、ずいぶんな言われ方だ。何がって板坂耀子『平家物語』p.118に出てくる文覚の言われ方だ。人の奥さんに懸想して勘違いで殺した挙げ句に逃亡、その後、源平両陣営に政治的にあれこれと絡んで引っかき回したんだから、まぁ、破茶目茶というかすごい人というか…。
でも、若い頃に不倫の恋に身を焦がして相手の旦那を殺そうとしたら、不倫の相手でしたってのは、小説家からしたら、ぜひ書いてみたい対象なのかも。今回の朝日新聞の連載小説「宿神」、ちょうど一カ月前に感想を書いたときには、文覚(盛遠)が袈裟を殺すところだったけど、盛遠(文覚)と主人公の義清(西行)が対照的に描かれているので、西行と文覚の「平家物語」ってのもいいかもなぁと思ったのが、先月までの感想でした。
ちょうど二人は正反対のキャラで、しかも清盛死後も何度か歴史上に登場してきますからね。大大河小説『平家物語』!第一部「忠盛の巻」第二部「(清盛と同世代の)西行、そして文覚の巻」、第三部「徳子(建礼門院)の巻」で、四人それぞれの視点から見た清盛を中心に話は進む。第三部の徳子の巻では、父親の清盛につれられて小さな牛若が登場。「徳子、この子と遊んであげなさい。」大河ドラマの義経でもあった、「義経、お姉様にグチこぼす」のエピソードも入れる…と。
で、本題の「宿神」ですが、源渡が丁寧に描かれているのが良かったです。袈裟の夫としてちょっとだけ登場してはい、おしまいじゃちょっと可哀相。その渡と義清の対決が今月の「宿神」の中心エピソードで、対決のシーンでは、事件直後の渡ってこんな感じだったかもなぁと思いながら読めました。渡は盛遠と比べて、賢い男として描かれています。私のイメージとしては文覚って策謀家なんですが、「宿神」では豪傑ですね。でも袈裟事件ですっかり人が変わってしまったようです。でも策謀家に近づいて行ってるわけじゃないですね。全然。渡と盛遠のシーンについては、ウーンここで生かすかなぁという感じ。これも何かの伏線なのかもしれませんが。
一方、義清は主人公なので、好意的に描かれています。芸術家でありながら、多才なマルチ人間、そしてクール。その義清の恋のお相手は…。盛遠の恋とはどう違った結末をもたらすのかが、今後の楽しみですね。
これに対して清盛はごく普通に(?)権力への野望を秘めた若者として登場しています。この辺は吉川英治『新・平家物語』よりも通俗的な感じですね。まぁ、一般的なイメージと異なる登場人物ばかりではかえって分かりにくくなる場合もありますから、ここはこれでいいのでしょう。
新聞小説でどの新聞とるか決めるってのも、いいもんだ。
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